▲ [column] 卒業という「イベント」 / 2003.5.9
保田圭が2003年5月5日を最後に、モーニング娘。というエンターテイメント集団の一員として活動する事に終止符を打った。

当日のコンサートは、会場全体が一体となり、保田圭を送り出すコンサートとしては大盛況を収めたらしい。
娘。としてはもうすでに6人目の卒業者。今までの卒業も含め、確かにこれは事務所以外誰も望まぬ卒業ではある。しかしだからこそ、会場に集った精鋭たちは、完全燃焼というほどにまで熱狂し、自分たちの心の丈をぶつけたのだと思う。悔いの残らぬように。この者たちの思いは、保田本人にはしっかりと届いたのだろう。

しかし、そんなに涙溢れる、悲しくも大盛況だったコンサートですらビジネス。事務所にとっては全ては単なるビジネスの一環に過ぎないのだ。

今回のコンサートは、注目度・熱狂度という点で考慮しても、成功したと言っていいのだろう。
コンサート終了後には悲しさから来る脱力感、空虚感などに苛まれる者もいるのかもしれないが、参戦した人間であるならば誰もが熱狂し、満足のいくコンサートだったと言うに違いない。
もちろんこれは、多くの人間の場合、保田圭の娘。最後の晴れ姿をその目にとくと焼き付けるといった思いからの熱狂であり、普段のコンサートライブのような純粋な楽しさのみから発生する熱狂というものとは本質的には違うのかもしれない。

しかし表面的には、この2点の熱狂に違いなどはなく、当然これをビジネスという観点のみで見た場合、2つの差異など考慮するに値しない。つまりは、コンサートが大盛況しようがしまいが、そしてその本質がなんであろうが、事務所にとってこれらは全く興味のないことなのだ。

結局、この卒業コンサートをビジネスとして捉えている事務所側にとって最も重要な事は、参戦した人間を満足させるコンサートを演出するという事などではなく、今回のこの卒業コンサートに、一般層に対するある程度の宣伝効果を持たせるという事である。事実、事務所の考えるこの卒業という「イベント」は、多かれ少なかれ娘。のメディア露出を増やし、一時的にでも一般層への宣伝効果をもった。

ヲタにとっては何よりも重大であり、悲しさと共に崇高ささえ伴う、正に悲壮美とも言うべきメンバーの「卒業」というものを、この様に事務所は完全にビジネス的な観点でのみとらえ、定期的な「イベント」にしようとすら考えている。今回の卒業が、約9ヶ月以上も前からすでに宣言されていた卒業であった事も、全てはこの「ビジネス」に起因する。あらかじめ卒業を宣言しておく事は、卒業の日が近づくにつれてのカウントダウン的な宣伝に多大なる効果を与えるからだ。

このコンサートに事務所が特に金をかけることはない。卒業コンサートという名目こそが大事なのであり、その内容・中身などは取るに足らないことなのだから。何よりもここに問題があるわけだが、普段と別段変わらぬ演出のコンサートでありながら、「卒業」という名が引き起こす効果は絶大であり、その「卒業」という言葉に感化されたヲタたちは、事務所が特に何もやらなくとも己達で自発的に演出を行い、毎回あたかも卒業らしき空気を醸し出してくれる。卒業コンサートらしい雰囲気に一瞬なりとも会場が包まれるのは、このように、ただただ卒業コンサートらしい演出がヲタ側から自然発生しているに過ぎない。

これは事務所側にとっては非常においしい。事務所にとって、メンバーの卒業は入学よりも効果的に金になる「イベント」であり、それを取り囲むヲタは何よりもおいしい鴨なのだ。だからこそ、自らが金をかけた盛大な卒業コンサートなんてものは行わない。あくまでも卒業は、彼らにとっては定期的な収入イベントであって、今までも、そして恐らくこれからも、このスタイルが変わる事はない。

今回の卒業コンサにて、唐突に安倍なつみがNever Forgetを指して「モーニング娘。の卒業テーマ」などと言い出した。完全に言わされている台詞とは言え、これにはかなり驚かされる。一体いつからこの曲が卒業テーマになったというのか。まさに、事務所が完全に卒業をお手軽な収入イベントとしてとらえているという事の確固たる裏付けである。

結局のところこれは、事務所が卒業という「イベント」をより経済的にこなすために、これからも確実に行われるメンバーの卒業において、「新たに送リ出す曲を作る意志は全くない」ということをヲタに宣言したのだ。所詮去っていくだけの人間に無駄な労力は使わない。ビジネスである以上金にならない事は一切やらないという徹底したスタイル。これには怒りを覚えるというよりも、もはや呆れるという以外に何もない。これから先の卒業は、卒業者がNever Fogetを歌うという単なる「儀式」で終わりとなるのだ。

私は卒業コンサートをビジネスとして考えること自体に全く異論はない。今現在ではまだ確かに「卒業」というものが、ある程度宣伝効果を持っている事は確かであり、これは大いに利用するべきだとは思う。しかしもちろんこれは、「ビジネスとしての側面も考慮する」といった事を意味している訳で、損得勘定のみで考えるというのとは全くの別物。全てをそういった観点のみでとらえることで、本当に重要な部分を軽んずる行為に何よりも大きな問題があるのだと思う。

金のことを考えるのは事務所として当然の行為だろうが、こういった適当な行為のしわ寄せは必ず後からやってくる。彼らが今まで蔑ろにしてきた、損得抜きで考えなければならない本当に重要な事は確かに存在するのだ。それが分かった時にはもはや手遅れに違いない。

モーニング娘。の卒業テーマNever Forget。
これから先、去り行くメンバーが当然の「儀式」として、このNever Forgetを歌う姿を見て、果たして我々は本当に悔いなく心から彼女達を送り出す事は出来るのだろうか。

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