▲ [column] 久住小春が「ミラクル」となる時 / 2005.5.6
先日のハロモニ新メンバー決定SPにて、モーニング娘。の第7期メンバーとして、新潟県出身の久住小春さん1名のみが選ばれた。

プロモーション番組としての合宿オーディションは、大きな効果があるからやった方がいいとは、以前に述べたことなのだけど、今回のハロモニの新メンバー大決定SPは、合宿オーディションという形こそとっていないものの、本質的にはこの合格者プロモーション番組の機能をうまく果たしていたのだと思う。大波乱の4次審査スタートなどと言っておきながら、つんく♂の「一人だけズバ抜けている…。」という一言で4次審査はあっさり終了。最終審査合格者は、久住さんたったの1名であることを早々に発表し、つんく♂が最終審査をしに自ら乗り込むという異例の形式をとることで、今までのオーディション以上に視聴者を引き付ける演出は十分出来ていた。

少し不安定な音程を、つんく♂自らが彼女の自宅で指導。次第に音程が取れていく様子が良くわかる番組構成。彼女に対する賞賛で埋め尽くされたコメントの後、彼女一名が大合格といった発表。その後、彼女の中学校に娘。までもが乗り込み、モーニング娘。になりたての彼女を激励する。テレビ番組として単純に面白かったし、これは彼女の娘。としてのスタートを切った番組としては最高の演出であり、最大の効果があった。

これは、こういった半プロモーション的なオーディション形式をとったことが重要であり、この場合、その対象者が誰であろうが、実は大した問題ではない。同じ形式をとってさえいれば、4次審査に進出した5名のうち、誰が最終審査に進出していても、それなりの効果は得られたのだと思うし、今回は結果的に久住小春という子が、つんく♂の目に留まったというだけに過ぎない。彼女が「ミラクル」だったのではなく、番組の演出が「ミラクル」だったと考える方が、この場合は妥当なのだと思う。

つんく♂が言うところのミラクルという言葉に、信憑性などは無いに等しい。もちろんそれは、たとえ彼にとってはミラクルではあっても、その他の人間にとっても等しくミラクルであるとは、単純には言えないからだ。これまでにも、彼が似たようなコメントをした上で娘。入りしたものの、案の定、いつまで経っても、何一つ世間に対する訴求力を持たないといった人間は確かに存在しているのだ。今回も、つんく♂のこのミラクルという言葉だけでは、再び同じ失敗を繰り返すといったことにだってなりかねない。事実、現時点で久住小春さんにミラクルを感じろというのは、あまりにも無理がありすぎる。

ところがそんな中、非常に面白いことが起こった。

モー娘救世主は12歳小春ちゃん(スポニチ)
「モー娘」新メンバー久住小春12歳(スポーツ報知)

各紙そろって、この胡散臭いミラクルネタに乗っかったのだ。

ここで気になるのは、今回の新メンバー久住小春の比較として、後藤真希が挙げられていること。つんく♂を始めとして、新メンバーの久住さんに対し、「後藤真希の再来」といった文言を意識的に使っているようなのだけど、後藤真希救世主説なんてものは真っ赤なウソであることは、すでに多くの人間がわかっている。あの当時の娘。人気は、娘。の既存のイメージからの方向転換と、それに付随した今までとは全く違うイメージの楽曲リリースが世間に受け入れられた結果であり、ただ単にちょうどいいタイミングで加入したメンバーが後藤真希であったというだけに過ぎない。モーニング娘。の爆発的な人気は、全てこの方向転換のうまさがもたらした産物である。

ところが現状はと言えば、どうだろうか。すでにこれだけの曲をリリースし、半ば飽きられてしまっている状況下、新メンバー久住さん加入のタイミングにあわせて、その楽曲の良さにより、娘。が再興するというのは正直言って難しい。久住小春さんは、オーディション直後の現時点では、これまでのメンバーと比較をしても、確かに目を引く華やかさを持っているのかもしれないけれど、彼女が加入することだけでモーニング娘。が変わるのかと言えば、はっきり言ってそんな期待は出来るはずもなく、表面的な状況だけで、後藤真希加入当時と同じとしてしまうのはあまりにも短絡的過ぎる。そしてやっぱり、モーニング娘。再興は、決して楽曲なくしては語られないのだと私は思うのだ。

これは何も私が特別なことを言っているわけではない。ある程度娘。のことを知っている人間であれば、きっと恐らく誰もがそう思うはず。だけれども、そう誰もが思っている状況でありながら、メディアが一斉に久住小春ミラクルネタに乗っかった。実を言うと私は、この部分にこそ大いに期待を持っている。

楽曲による再興が簡単には実現できない、つまりは、自らの力でこの低迷する状況を打開するのが今となっては困難であるならば、後は周囲の力に頼るしかない。少なくとも好意的に見える、これら各紙の対応は、メディアにとってもモーニング娘。を始めとしたアイドルグループ、ひいては音楽界の再興を待ち望んでいる結果とも受け取れる。メディアによる強烈なバックアップがあれば、モーニング娘。再興は決して夢ではないのだ。彼らメディアにとって、「かつて後藤真希によって、低迷していたモーニング娘。が再興した。」といった都市伝説のような話が、都合のいい文句であり、尚且つこれが世間にもかろうじて浸透している事であるならば、これを利用しない手は無く、そうとなればその実態がどうであれ、久住小春さんを第二の後藤真希といった謳い文句でデビューさせることに、私も積極的に乗っかっていこうと思う。

そしてもし、久住小春さんと彼女のモーニング娘。加入が、メディアをその気にさせ、モーニング娘。再興のきっかけとして少なからず働くのであるならば、その時こそが、彼女が本当の意味でミラクルであり、モーニング娘。の救世主になれる瞬間なのだと私は思う。
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