▲ [TEXT] 「松浦亜弥 素顔のメモリアル」との55ページの死闘
松浦亜弥素顔のメモリアル表紙 それはまさに衝動買いでした。
どんな内容なのかなんて確認もしませんでした。
今思えば、これがすでにこの後に起こる不幸の序曲だったとは誰が想像したでしょう。

その当時のボクときましたら、「松浦亜弥」という言葉に条件反射的に敏感に反応する体になっていましたし、さらにその上「素顔」なんていう言葉がきたものですから、これは完全にダブルパンチでした。
元来、人間とは「素顔」「マル秘」「お宝」という言葉には弱くできているものなのですから、しょうがないってもんです。

購入するに当たり「松浦亜弥独占インタビュー 本誌だけに語った素顔のあゃゃ!!」なんていう、なんとも都合のいいサブタイトルを勝手に考えては、ニヤリとほくそ笑んだものでした。
この時点では、その後の悲しい結末など想像する由もありませんでしたから、こんなお宝本を手にすることが出来るといったことで高まる興奮も絶頂でした。

しかし、実際に本を購入し数ページ読み始めたところで、その余りの内容の酷さにボクは愕然とし、まんまと騙されてしまったことに気がついたのです。

とりあえず、表紙には「お宝フォト満載」などとウソが書いてあります。
お宝フォトと思わしきものは216ページ中3ページ分だけでしたから、一体どこが満載なのでしょうか。
それとも、あゃゃが通っていた小学校の門を写した写真がお宝なのでしょうか。
当然、「お宝」などといっても修学旅行中に撮ったワンショット程度のもので、あんな物やこんな物ではありませんでした。「お宝」という言葉を軽々しく使ってしまっている悪い例です。

さらにこの本のコンセプトは、ボクが勝手に想像していた「松浦亜弥独占インタビュー」といったものではなく、この本の著者である「吹上流一郎(ふきあげ・りゅういちろう)」という人物が、あゃゃの故郷に行って、その周囲の人たちにインタビューするという、すこぶるどうでもいいコンセプトだったのです。

この事実を知った瞬間に、すさまじい勢いで読む気がなくなったのですが、「いや、しかし例えコンセプトが酷くても、内容がよければそれなりに楽しめるさ!」と思い直し、断腸の思いで、この本を読破することを試みました。

しかし、その肝心の内容の方もコンセプト以上に酷いもので、読めば読むほどこの本の不毛な内容に嫌気がさしてきました。
「いや、しかしあゃゃだ!あゃゃについて書いていることには変わりないんだ!」と、自分に言い聞かせては、畑仕事をしていたおばあさんのインタビュー話や、近所の主婦のインタビュー話等、死ぬほどどうでもいい話をボクは柔軟に読み流していきました。

この時点では、もはや内容云々よりも「素顔のメモリアルを読みきった」という事実と称号を手に入れたいがために、吹上流一郎氏のお世辞にもうまいとは言えない、チャンチャラおかしい文章体と格闘をしていましたが、読み進むにつれ次第にそんな彼の文体に対する免疫も付き、不思議と拒絶反応も起こさなくなりましたから、「こいつはいけるな」と心の底で会心の笑みを漏らしたのは言うまでもありません。むろん、実際の表情は引きつきの笑みでしたが。

だがしかし、そんな目的意識ではやはり希薄だったのか、読破するためのボクのこのような血のにじむような努力と固い決心も、この吹上流一郎氏の「瞳は夢見る夢子ちゃん状態」などという、とてもプロとは思えない、余りにぶっ飛んだ独創的な比喩表現を見た時には大きくぐらつきました。

そして、問題の55ページ目に記載されている次の文章を読んだ時に、ボクの決心は無残にも崩れ去ったのです。

ここまでの話の内容はこう。
――あゃゃの妹が、あゃゃと同じ中学校に入学し、あゃゃと同じテニス部に入部した。
この妹もとびっきりの可愛さだったらしく、当時の男子生徒には「あゃゃ派」と「妹派」という二大派閥が出来ていたらしい。そういった事実を聞いた、あゃゃの妹の同級生の女の子のインタビュー。――

以下本文より抜粋。

「たしかに、妹もかわいいんです。
というか亜弥ちゃんとこの姉妹はみんなかわいいんですよ、実際。
開けっぴろげでおおらかな亜弥ちゃん。2人の妹さんたちは、どちらかというと清楚な感じですね。
そうですか、男子は亜弥派とか妹派とかやってたんですか・・・・・・トホホですねぇ」
トホホ。

「」で囲まれた文章であるから、正真正銘これはその少女が実際にしゃべった言葉のつもりなのでしょう。
しかし最後のトホホ。ものを書く上でその著者がデフォルメして脚色するのは当然のことでしょうが、その結果がトホホです。
そんな言葉を実際に使うやつがいるのでしょうか。いや、いるはずがない。いるわけがない。むしろ、いてたまるかコノヤロウ!!かかってきやがれ吹上流一郎!!そして金返せ!!

ここまで読んだボクは、そっとこの本を閉じ、その後二度と開くことはありませんでしたとさ。

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